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好酸球性副鼻腔炎に対する生物学的製剤/デュピルマブ(製品名デュピクセント)の治療成績

好酸球性副鼻腔炎の原因は好酸球やⅡ型自然リンパ球が関与する特殊な炎症が原因です。それらの細胞が産生する数種類のサイトカインが鼻や気管支で異常な炎症を起こし、多彩な症状が出現します。(詳細は「診療案内」の「好酸球性副鼻腔炎」や「好酸球性副鼻腔炎の再発」もご参照下さい。)
好酸球性副鼻腔炎の重症や難治性の患者さんの中には手術を行っても再発される患者さんが少なくありません。再発の定義は術後にいったんは正常化した副鼻腔に明らかに鼻茸(ポリープ)が改めて出現した場合ですが、以前に行われた全国的な研究では1年で20%が再発し6年では半数、重症例では3年で60%が再発すると報告されました。2022年に論文報告した当院での成績は術後3年間で再発30%でした。ただし再発したといっても必ずしも日常生活に支障が出るわけではありません。鼻茸(ポリープ)が小さくて限局していれば、保存的治療を併用する事によって半分以上の方は鼻汁、鼻閉、後鼻漏、嗅覚障害が良好にコントロールされます。
ただ、保存的治療を行ってもどんどん鼻茸(ポリープ)が大きくなって日常生活に支障をきたす方も一定の割合でおられます。
以前はそのような難治性の方には何度も手術を行うしかありませんでしたが、3~4年ほど前から生物学的製剤が好酸球性副鼻腔炎の治療に認められました。

生物学的製剤とは

生物学的製剤とは化学的に合成した薬ではなく、生体が作る抗体(たんぱく質)を人工的につくり、薬物として使用した新しいタイプの薬です。
3~4年ほど前にデュピルマブ(デュピクセント)が好酸球性副鼻腔炎に対する保険適用として認められ各施設で投与が始まりましたが、極めて効果が高く画期的な治療法として注目されています。
好酸球性副鼻腔炎の生物学的製剤には、デュピルマブ(デュピクセント)やヌーカラ(メポリズマブ)などがあり、既存の治療法では対処が難しい重症の好酸球性副鼻腔炎に対して使用されます。デュピクセントは、IL-4(インターロイキン4)とIL-13(インターロイキン13)というサイトカインの働きを抑えることで、鼻や副鼻腔の炎症を抑えます。鼻茸を小さくし、鼻づまりやにおいがわからないなどの鼻症状を改善する効果が期待できます。
ヌーカラは、血液中の好酸球の活性化に大きな役割を持っているIL-5に対する抗体(抗IL-5抗体)です。血液中の好酸球を減らすことで炎症を鎮めます。
ただし、これらの生物学的製剤の対象となる方は現時点では限られており
• 全身性ステロイドなどの薬物療法を実施しても症状が改善しない、長期改善状態を維持できない方
• 手術後に再発した鼻茸をともなう好酸球性副鼻腔炎の方
すなわち手術後再発した難治性のタイプで、保存的療法ではコントロールできない方にほぼ限られます。

当院でのデュピルマブ(製品名デュピクセント)の治療成績

当院での好酸球性副鼻腔炎術後に再発を認めデュピクセントの投与を2年以上継続した患者さんは27例です。

図1:鼻茸(ポリープ)の大きさ
治療前に5.9で合った鼻茸は半年後には1.4と著明に縮小し、その効果は2年後も持続しています。
鼻茸(ポリープ)の大きさ

図2:嗅覚の改善度
嗅覚の改善度
嗅覚の改善度は77%で45%の方は治癒の判定となりました。難治性の好酸球性副鼻腔炎では驚くほどの改善度だと思います。

図3:CTの改善度
CTの改善度
CTの改善度も治療前の陰影スコアが18であったのが半年で⅓の6に、1年後には4まで著明に改善しております。

図4:自覚症状
自覚症状
自覚症状も半年後には鼻汁、鼻閉、後鼻漏、嗅覚障害ともに2~2.5 から0.5前後まで劇的に改善しています。
嗅覚障害も2.5から1強まで改善していますが他の症状と比較するやや 改善度が劣ります。これは長年の炎症により嗅神経そのものが強いダメージを受けているから推測されます。 

難治性の方の特徴

前述のように術後再発された方の中には鼻洗浄や副鼻腔局所の処置、ステロイド吸入薬の経鼻呼出などの保存的治療でほとんど日常生活に支障がない程度にコントロールされている方が多いですが、中にはそれらではコントロールできずに生物学的製剤が必要な方もおられます。
どこにその差があるのか両者を比較検討しました。すると年齢が高く、組織中の好酸球が多く、手術してから再発までの期間が短く、中耳炎、喘息、アスピリン喘息の合併が多く、重症度が高い方ほど生物学的製剤が必要となる可能性が高いという結果が得られました。
ただこれらの方もほとんどがデュピクセントの投与で日常生活が大きく改善しています。
先日、ヌーカラというIL5をターゲットとした生物学的製剤も副鼻腔炎への適応が承認されました。また、今後さらなる生物学的製剤も承認される予定です。
数年前までは特効薬がなかった好酸球性副鼻腔炎ですが生物学的製剤の登場によってほとんどがコントロールできる疾患になりつつあります。
ただし、まだまだ歴史の浅い薬でもあります。副作用も皆無ではありませんし、そのような事にも注意して治療を行うにはそれなりの知識と経験が必要です。
4月から次期院長として着任する朝子幹也医師は多くの生物学的製剤の治験にも関わっており5種類の生物学的製剤に精通しております。安心して治療を受けて頂けると確信しております。