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後鼻神経切断術について
(粘膜下下甲介骨切除術
を含む)

後鼻神経切断術はアレルギー性鼻炎や温度変化に反応する鼻過敏症などに対して、最終的な手術方法として認識されています。(❶)
後鼻神経(正式には後上鼻神経)は鼻汁を分泌する翼突管神経(ビディアン神経)との末梢枝と知覚神経が合わさったもので、アレルギー性鼻炎の主な反応の場である下鼻甲介に分布し、鼻汁の約8割、くしゃみの3~4割はこの神経が支配すると言われています。

手術の変遷

手術の変遷

ビディアン神経切除術
(図1の1)

内視鏡導入以前は歯茎に切開を入れ、顔面の骨の一部を穿破し翼口蓋窩と言われる顔面深部で翼突管神経(ビディアン神経)を切断していました。(❷)

ただ、この方法には

  • 手術侵襲(手術による体へのダメージ)が大きく片側2週間、両側1ヶ月程度の入院が必要
  • 顔が腫れる、歯茎がしびれる
  • 涙の分泌神経を切るために涙が枯れる(ドライアイ)
  • くしゃみに対する抑制効果はない

などの大きな問題があり広く普及するには至りませんでした。

蝶口蓋孔直後で切断する
後鼻神経切断術(図1の2)

上記の問題を解決するには翼突管神経(ビディアン神経)が蝶口蓋孔から鼻腔内へと後鼻神経となって進入した後に切断すれば涙の分泌神経を切らないために涙が枯れることもなく、知覚神経の一部を切断するためにくしゃみも抑制されることは知られていましたが、鼻腔深部での手術のために肉眼ではとても困難で危険性の高い手術でした。

それが、20年ほど前に内視鏡が導入されて以降、鼻の中の操作で後鼻神経を切断することが可能になりました。

この方法の長所は

  • 鼻内での操作であり、手術侵襲が少ない、両側同時に可能で数日~1週間入院で可能
  • 顔が腫れたり、歯茎がしびれることはない
  • 涙の分泌神経を切らないために涙が枯れない
  • くしゃみに対する抑制効果もある

などです。

実はこの術式は世界で初めて院長川村が考案、論文報告した方法(❸)でありウィキペディア(❶)でも紹介されています。

この手術方法はレーザー手術などが無効の重症のアレルギー性鼻炎患者も9割が良好な結果を得、また、3年以上の術後経過でも8~9割の患者で効果が持続する効果の高い術式であったため、全国の大学病院をはじめとしてあらゆる施設で広く行われるようになりました。

ただ、この手術にも大きな問題が一つあり、それが

手術後1~2ヶ月以内までは起こりえる動脈性の出血

です。鼻腔深部で神経と血管を同時に超音波凝固装置で切断する(❹)のですが、血管の断端が露出することもあり、かさぶたが脱落する頃に手術室での止血処置が必要な程度の動脈性出血を来す可能性が1~数%あったのです。

それを解決する方法として、現在当院で行っているのが下鼻甲介粘膜下での後鼻神経切断術です。

下鼻甲介粘膜下での
後鼻神経切断術(図1の3)

これは後鼻神経が後方から下鼻甲介内に進入して枝分かれした直後にそれぞれを切断凝固する術式であり、蝶口蓋孔直後で切断する上記の方法に比べ

  • 切断する血管が細く、血管断端が粘膜で覆われるために出血の危険性が少ない
  • 疼痛が少なく、体動の影響も少ないために局所麻酔でも可能
  • 創部も小さく、日帰りや短期入院でも可能
  • 下鼻甲介骨も切除するために鼻づまりに対する効果も高い

などの大きな利点があります。

実際当院でも開院以来、この方法で全身麻酔下477件、局所麻酔下354件。左右両側ですので計1662側施行しております(2019年6月まで)が、入院処置が必要な動脈性出血は一例も認めておりません。また、近年は局麻下で安全に行えることが確認でき、患者さんの希望も多いためにも局麻下日帰りが圧倒的に増えてきております。

手術の実際

手術の実際
  1. 下鼻甲介先端に粘膜切開を加えます。
  2. 下鼻甲介骨の周囲を粘膜から剥離します。
  3. 下鼻甲介後端部で分枝した神経を切断し凝固します。
  4. 切開した粘膜を縫合します。

手術の成績

過去約2年間で行った下鼻甲介粘膜下の後鼻神経切断術の成績を示します。症例数は127例で、術後2~3ヶ月で通院の必要がなくなった時点でアンケートにご協力頂いた方の症状別の成績と全体的な満足度(%でお答えいただきました)を示しています。

なお、大多数の方が鼻づまりの症状も強いために鼻中隔矯正術も同時に行っています。

評価方法

症状がなくなったものを「消失」、すごくよくなったものを「著明改善」、ややよくなったものを「改善」もともと症状がなかったものを「なし」症状が悪化したものを「悪化」として表示しています。

「消失」と「著明改善」、を有効例とすると鼻づまりで94%、鼻汁71%、くしゃみ77%、日常生活の支障度が93%でした。また全体的な満足度は98%でした。

粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切断術
満足度分布%(125名)

鼻づまりに関しては後鼻神経切断術による粘膜の腫れを抑える効果、下鼻甲介骨を切除した事による減量効果に加え、鼻中隔矯正術の効果も重なって9割を超える良好な結果であったと考えます。
くしゃみ、鼻汁は後鼻神経以外にも鼻腔に分布する神経はあり、全ての神経を切断することは技術的にも鼻腔機能を温存するためにもできないために、およそ半減程度と手術前に説明いたしますが、この結果からは予想を上回る7割を超える有効率でした。
日常生活の支障度と全体的な満足度は9割越えで結果のみならず、疼痛や出血、日常生活復帰までの日数など、この手術に対して総合的に高い評価を頂いていると思います。

(本当は自筆で感想も多くの方に記入していただいており、本来であればそれも公表してよいと言っていただいているので、ここでご紹介したいところですが、近年の医療関係ホームページの規制によりご呈示することができません。ご希望の方には来院時に個人情報が特定できない形で閲覧していただくことは可能です。)

合併症・危険性

出血

基本的にこの手術は粘膜下で施行するために術中の出血量もほとんどが30cc以下と微量です。術後は粘膜表面の傷や凝固した影響でかさぶた(痂皮)がつきます。それが脱落するときに静脈性の出血を認めることは1%弱の頻度でありますが、タンポンによる圧迫や再凝固で止血します。前述したように入院が必要な動脈性の大出血は過去にはありません。ただし、人間の体の事ですから将来的にも可能性がないとは言えません。

エンプティノーズ
(萎縮性鼻炎)

鼻の構造物である下鼻甲介や中鼻甲介が大きく欠損して物理的には鼻の通りが良好であっても鼻閉感や疼痛を生じる病態です。(❺)
下鼻甲介を触る手術の時に問題とされる場合がありますが、下鼻甲介粘膜下の後鼻神経切断術では粘膜そのものは温存するので、患者様からそのような訴えを受けたことはありません。
他者の報告(❻)では長期的観察でも萎縮性鼻炎は認めなかったとあります。おそらく問題となるのは過去に行われていた下鼻甲介を根本から骨と粘膜同時に切除する術式の場合ではないでしょうか。

Q&A

術後の経過や安静は?

手術当日は特殊な綿状の詰め物をします。
基本的に翌日(休診日の場合は翌々日)に詰め物を抜き、特別に出血が多くなければ、何も詰めずに帰宅していただきます。
その後は1週間後、次は1~2週後、次は2~3週後と徐々に間隔を開けて2~3ヶ月で術後治療は終了します。
術後1週間は粘膜が反応性に腫れ、溶けたチョコレートのような血が混じった鼻水が貯まりますのでかなり鼻は詰まります。
1週間を過ぎると粘膜の腫れは引いていき、血が混じった鼻水も減って、湿ったかさぶたとなって、徐々に鼻が通ってきます。1ヶ月も過ぎるとかさぶたはかなり薄くなって鼻の通りは安定してきます。
時々粘膜が癒着する場合がありますが、その場合は切離して1週間ほど癒着防止用の特殊なスポンジを入れます。
1ヶ月半を過ぎるとほぼ出血の危険性もなくなります。それまでは激しい運動や、過度の飲酒、飛行機などはお控え下さい。

局所麻酔って痛みはありますか?

局所麻酔の場合、まず前処置として鼻の中に綿棒で麻酔液を塗布して、次に麻酔液を浸したガーゼタンポンを鼻内に入れます。
さらにはタンポンを抜いた後に粘膜に直接麻酔薬を注射しますがこの段階では前処置によって痛みはほぼ感じないと思います。
また、それとは別に点滴から鎮痛剤や少し眠くなるような鎮静剤を加えますので、半分ウトウトとした状態で手術を受けていただきます。
従って強い痛みを感じることはほぼないと思います。

自分で運転して帰れますか?

局所麻酔の場合、前述のように少し眠くなるような鎮静剤を使いますので、術後しばらくはウトウト眠くなったり、ぼんやりとします。
元々血圧が低い方などではふらついたりすることもあります。
これは一晩安静にしていただければ回復しますが、帰宅時はご自身での運転(自家用車、バイク、自転車など全て)は危険ですので禁止とさせていただきます。

付き添いは必要ですか?

局所麻酔の場合、来院はお一人でも結構ですが、術後数時間はふらついたり、ぼんやりしたりすることがありますので原則として付き添いの方と一緒にご帰宅いただきます。
どうしても無理な場合はタクシーでお帰り頂く場合もあることをご了承下さい。

遠方からの場合は?

適応があれば初診時に手術日と術前検査日、手術説明日を決定します。
一般的にはそれぞれ来ていただきますが、遠方からお越しの場合は術前検査日、手術説明日を同じ日にするなどして、来院回数を減らすように工夫もいたします。
手術当日は急変時に対応する必要があるため、お近くにお泊まり下さい。
基本的には一泊ですが翌日が休診日の場合や創部の状況によっては二泊して頂く場合もあります。
術後の通院はある程度創部が安定する2~3週目以降はお近くで診て頂くことも可能ですが、執刀した医師が診ることが最良です。

出典および参考文献

  1. フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
    後鼻神経切断術
  2. Golding-Wood.PH
    Observation on petrosal and vidian neurectomy in chronic vasomotor rhinitis. J Laryng Oto 175:232-247,1961年
  3. 川村繁樹
    下鼻甲介・後上鼻神経合併切除術 耳鼻臨床 93:362-372 2000年
  4. 川村繁樹
    鼻内後鼻神経切断術 耳鼻咽喉科診療プラクティス 46-49 2000年
  5. 竹内裕美
    鼻腔通気性の評価  耳展54 390~397 2011年
  6. 朝子幹也
    粘膜下下鼻甲介骨選択的後鼻神経合併切断術のコツ JOHNS 31 205-209 2015年

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監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医
川村繁樹