2025年鼻科学会 発表報告「易再発性を考慮した好酸球副鼻腔炎に対する術式」 名誉院長 川村繁樹
9月に東京で開催された日本鼻科学会に参加、発表してきました。
既に朝子がブログで示しているように今回私の発表は手術動画コンペシニア部門でした。若手とシニアに別れ、しかもコンペ形式での発表は今回が初めての試みで直前までコンペ形式であることすあまり認識していませんでした(笑)今回の発表内容は「易再発性を考慮した好酸球副鼻腔炎に対する術式-中鼻甲介上端切除術(UMT)の検討-」という内容です。
概略を少しお話します。
現在慢性副鼻腔炎の約半分は好酸球炎症が主原因となる好酸球性副鼻腔炎という疾患です。この疾患の詳細はHPの「診療案内」→「好酸球性副鼻腔炎」で示していますのでご参照頂ければ幸いですが、好酸球性副鼻腔炎は再発しやすいこと、しかも再発する場合は中鼻甲介上方の前頭洞から前頭窩にかけて、また嗅裂近辺に再発しやすい傾向があり、それゆえに前頭部痛や嗅覚障害が起こりやすい事が知られています。それを少しでも予防するために中鼻甲介の上方一部をあらかじめ削っておいて、そのあたりが狭くならないようにする事で再発率を抑える事ができるかという検討です。(下図の切除範囲)
それを切除していない以前の手術症例と比較して嗅裂や前頭窩、前頭洞の再発が抑えられたか、また切除した症例での手術前と手術後で炎症や嗅覚が改善したかという検討です。
術式はビデオで供覧したのでHP上での再現は困難ですが中鼻甲介上方を切除した症例と切除しなかった症例を次に示します。
中鼻甲介上端切除例
中鼻甲介上端非切除例
写真でお示ししたように中鼻甲介上方を切除した症例ではその部位が大きく開放されて嗅裂も前頭洞も開大しています。
勿論、全ての切除した症例が良好な経過をたどるわけではなく、中には再発した症例もありますが両者を100側以上行い2年以上経過を追った結果では中鼻甲介上方を切除した方が嗅裂や前頭窩、前頭洞の再発が抑えられたという結果でした。また中鼻甲介上方を切除した症例での手術前後の比較ではCTで判定した副鼻腔炎の程度も改善しており、嗅裂も炎症所見が改善しており、嗅覚検査でも改善率58%と良好な結果でした。
今回の臨床検討の結果はまずまず良好な成績でしたがさらに多くの患者さんを長期間診続けないと容易には結論はでないと考えております。好酸球性副鼻腔炎は体質的な側面を有する疾患ですのでいくら上手な手術を行っても一定割合で再発したり悪化したりもしますが、少しでもその程度を減らし一度の手術で良好なQOL(生活の質)を維持できるように研鑽を積んでいく所存です。
なお、冒頭で述べたコンペの結果ですが見事に落選(20の発表のうち1つのみ当選のようです)でした。(笑)今回の学会では主に腫瘍とかの高度、難治の症例に対してどの様に危険部位を避けて骨を削るかとか、その結果生じた欠損部位にどのように粘膜で覆うかといった大学病院レベルでチームで行う手術の工夫といった内容が多く、我々サージクリニックで日常的に日帰りや一泊で行う良性の疾患に対する手術は多少畑違いであったのかもしれません。