医院名:川村耳鼻咽喉科クリニック 
住所:〒536-0001 大阪市城東区古市3丁目23-21 
電話番号:06-6939-8700

アレルギー性鼻炎の治療・手術内容

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はじめに

現在、国民の15〜20%すなわち5人に一人はアレルギー性鼻炎にかかっており、患者数の増加と発症の低年齢化が社会的にも問題となっています。その治療の主体は薬局や病院で処方される薬物療法ですが、アレルギー性鼻炎は体質的な病気であり基本的には薬で治るものではありません。(自然に治る率は10%前後とされています)

アレルギー性鼻炎の鼻腔所見

鼻腔所見

固有鼻腔(いわゆる鼻の中)には左右それぞれ下鼻甲介、中鼻甲介と呼ばれる棚状の突起物が存在し、その表面は粘膜で覆われています。そのうちの下鼻甲介は鼻の入り口である鼻孔に最も近く、鼻から吸い込まれたホコリや花粉などの抗原は下鼻甲介粘膜に付着します。それによってアレルギー反応が起こると下鼻甲介は白く、ぶよぶよに腫れます。またある種の点鼻薬を使いすぎても下鼻甲介は腫れますがそのときは比較的赤く腫れ上がります。

アレルギー性鼻炎はどうして起こるの?

どうして起こるの?

人間には、体の外部から侵入してきたもの(異物)を体から排除しようとする働きがありますが、ほこりやスギ花粉などの抗原が下甲介などの鼻の粘膜に付着すると、それを異物として認識して、その抗原だけに反応するIgE抗体という物質が作られます。この状態を感作の成立と呼び、アレルギーが起こる準備ができた状態です。(図1の1)
このIgE抗体が肥満細胞などのアレルギーを起こす細胞の表面に結合し、つぎに抗原が侵入すると抗原抗体反応が起こり、ヒスタミン・ロイコトリエンといったケミカルメディエーターが放出されます。これがアレルギー反応です。(図1の2)これらのケミカルメディエーターは直接血管に作用し、血管の拡張をもたらし、血管から水分が粘膜下に漏れることによってて鼻づまりを起こします。(図1の3)ケミカルメディエーターの刺激は知覚神経へと伝わり(脳)を介して横隔神経、迷走神経を興奮させることによってくしゃみを引き起こします。(図1の4)
また、ヴィディアン神経、後鼻神経などの分泌神経を興奮させることによって鼻の粘膜に存在する鼻腺に作用して鼻水を出します。(図1の5)したがって、鼻づまりは粘膜局所での反応が主であり、くしゃみの全てと鼻水の多くは知覚神経と分泌神経を介した反応であると言えます。

アレルギー性鼻炎の症状

アレルギー性鼻炎の症状

  • 発作性のくしゃみ・鼻水・鼻づまりの3症状がほこり・ダニなどの通年性アレルギーでの特徴的な症状です。
  • 花粉症では、スギ、ヒノキであれば春に、イネ科であれば初夏に、ヨモギなどであれば秋に上記の3症状に加えて目、耳、のどのかゆみや、皮膚があれる、頭が重いといった症状が表れることがあります。
  • かぜでは発熱、筋肉痛、関節痛などの症状を伴うことが鑑別になります。

アレルギー性鼻炎の診断

アレルギー性鼻炎の診断は特徴的な粘膜の所見、症状、採血によって行います。

RAST・MAST

採血によって血液中の抗原に反応するIgE抗体の種類、量を調べます。一般的にはハウスダスト(ほこり)、とスギ、ヒノキ、カモガヤ(イネ科)、ヨモギなど花粉に対する抗体の量を調べます。さらにはご希望によってネコやイヌなどの動物上皮や食べ物に対する検査も可能です。

鼻粘膜誘発試験

ハウスダストやス等のアレルギーを起こす物質のエキスを紙切れに染み込ませて下鼻甲介表面に置いて局所の反応を観察します。くしゃみ、鼻汁、鼻閉のどの症状が現れるか、その程度を定量的に調べる事ができます。また、治療前後での効果判定にも有用です。

内視鏡検査

内視鏡検査

アレルギー性鼻炎の確定診断ではありませんが、鼻内所見の観察は診断に重要です。下鼻甲介の腫脹の程度や色調、鼻汁の量や正常は治療に必要な情報です。また、治療効果に影響する要素として鼻中隔弯曲症や副鼻腔炎の合併を調べる事も大切です。

アレルギー性鼻炎の保存的治療

薬物療法

抗ヒスタミン薬(抗アレルギー薬)

アレルギー性鼻炎の治療として最も一般的に使われる薬剤です。古いタイプの抗ヒスタミン薬では眠気や口の渇きなどの副作用が強い薬剤もありましたが、近年開発されている薬剤ではそのような副作用は軽減され、長期投与でも安全とされています。

ステロイド点鼻薬

アレルギー反応を抑えるステロイドの局所薬です。比較的高価が早く、効き目も強いといった特徴があります。近年の薬剤ではほぼ局所のみに作用し、全身的なステロイドの吸収はほとんど無く安全性も向上しています。ただし、人によっては点鼻そのものが刺激となる場合があります。

抗ロイコトリエン薬

鼻粘膜の腫れを抑えて特に鼻づまりに有効とされている薬剤です。効果が出るのに時間がかかる場合があります。

血管収縮剤

市販の点鼻薬や内服薬によく含まれる成分です。鼻粘膜を収縮させるので鼻づまりに対して速効性があり効果も強いですが、連用、頻用すると徐々に効果がなくなり、逆に粘膜が腫れて薬剤性鼻炎になる場合があり注意が必要です。(「花粉症が過ぎても続く頑固な鼻づまりー薬剤性鼻炎」を参照してください。)

免疫療法(舌下免疫療法)

スギ花粉症やダニアレルギーに対して根本的な治療が期待できる免疫療法として舌下免疫療法(SLIT)が一般の診療所でも行えるようになりました。(当院では施行しておりません)

これは、スギ花粉エキス剤「シダトレン」「シダキュア」やダニエキス剤「ミティキュア」を舌の下に滴下し2分間そのままの状態を維持した後に飲み込むという方法で、これを1日1回、2年間毎日服用します。この治療法の特徴として

  1. 有効率は約6~7割(1割は症状が無くなり、5割は症状が半分くらいに軽くなり、2割は症状が軽くなり、残り2割は変わらない)。
  2. 通院頻度は月1回。
  3. 注射ではないので痛くない。皮下免疫療法と比べると重篤な副作用(アナフィラキシーショック)などの発現率が低い。

ただし

  1. 対象年齢は5歳以上
  2. βブロッカー使用中、重症の喘息、開始時に妊娠している方は適応外
  3. 花粉の飛ぶ季節以外でも毎日、最低2年間(できれば3年以上)行わなければ十分な効果は期待できない。
  4. 効果発現に数ヶ月から半年かかる。スギ花粉症では11月以前に開始する事が望ましい

などの注意点もあります。唯一の根治が期待できる治療法ではありますが、花粉時期以外も毎日服用の必要があり、月一度(最初の1年間は2週に1度)は受診する必要があるなど根気のいる治療でもあります。

効果発現に時間のかかる治療法ですので、この治療の開始と同時期にレーザー手術・ラジオ波による鼻粘膜焼灼術を施行して、舌下免疫療法の効果が発現するまでの間の症状を抑制するのがいいのではないかと考えております。

当院は、大阪府大阪市はもとより、京都・奈良・兵庫など、近隣の県よりアレルギー性鼻炎・花粉症の治療を希望される方も多くいらっしゃいます。相談は無料で受け付けておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

アレルギー性鼻炎(花粉症)に対する手術治療

アレルギー性鼻炎は体質的な疾患であり、厳密には手術によってアレルギー性鼻炎そのものが治るとは言えません。しかし近年、様々な手術方法の開発によって鼻粘膜をアレルギー反応が起こりにくい粘膜に変える、あるいはアレルギーが起こっても鼻づまりや鼻水、くしゃみが起こりにくい粘膜に変えることは可能になってきています。アレルギー性鼻炎に対するラジオ波凝固術(ラジオ波焼灼術・レーザー手術)や後鼻神経切断術はその代表的なものです。

アレルギー性鼻炎のタイプや重症度によっても適する手術方法が異なります。当クリニックでは全国で行われているアレルギー性鼻炎に対する全ての手術を日帰り、あるいは一泊二日で行っております。(日帰りや一泊で手術ができる理由についてはこちらをご覧ください。)

アレルギー性鼻炎(花粉症)に対する手術治療の選び方

以下にそれぞれの手術方法の適応や特徴をまとめました。ご自身の状態によって最適な手術方法は異なります。最終的には医師との相談になるかもしれませんが、どのような場合にどのような方法が適するか、所要時間や費用や効果もまとめましたので参考にしてください。

術式 ラジオ波下甲介焼灼術
(レーザー手術)

後鼻神経凍結術
鼻中隔矯正術

粘膜下下甲介骨切除術
(鼻中隔矯正術)

粘膜下下甲介骨切除術

後鼻神経切断術
ラジオ波下甲介焼灼術(レーザー手術)+後鼻神経凍結術 鼻中隔矯正術+粘膜下下甲介骨切除術 (鼻中隔矯正術)+粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切断術
所要時間 日帰り(15~20分) 日帰り(60~90分) 日帰り(90分)
麻酔方法 局所麻酔 局所麻酔 局所麻酔
手術日 ほぼ毎日外来中 毎朝、火・水昼、月・金午後 毎朝、火・水昼、月・金午後
手術方法 アレルギーを起こす下甲介粘膜の表面をラジオ波で凝固、後鼻神経を粘膜上から凍結します。 ①に加えて鼻中隔の弯曲部を矯正し、下甲介は肥厚が著明な場合は粘膜の裏で骨を摘出します。 ②に加えて下甲介骨を摘出した後に後鼻神経を切断し、その断端を凝固します。
どんな方に適するか 骨の形態に問題がなく、粘膜の腫れが強い方に適します。鼻水が多い方には効果が弱い場合もあります。 骨の形態に問題があり、ラジオ波手術が行えない方、鼻づまりの強い方に適します。鼻水が多い方には効果が弱い場合もあります。 骨の形態に問題があり、鼻水も多い方に適します。アレルギー性鼻炎の手術治療の中では最も効果が高い方法です。
対象年齢 鼻の操作をいやがらない年齢(10歳くらい)から。 14~15歳から。 後鼻神経切断術神経は12歳くらいから。鼻中隔矯正術は15歳くらいから。
費用(3割負担で) 約1万円

約6~8万円
(下鼻甲介の術式によって費用が異なります)

約18万
(ただし高額医療費適応で平均的な年収であれば自己負担8~9万円です。詳しくは手術費用の項をご覧下さい)

※横スクロールで全体を表示

アレルギー性鼻炎(花粉症)に対する手術方法

以下にアレルギー性鼻炎(花粉症)の治療に用いられる手術方法について、それぞれ詳細を記載します。手術を検討される場合にはそれぞれの手術方法によってメリット、デメリットがありますし、日数や費用も異なります。当院ではアレルギー性鼻炎に対する全ての手術を行っております。お困りの際はお気軽にご相談ください。

ラジオ波凝固術(ラジオ波焼灼術・レーザー手術)+鼻内後鼻神経凍結術

ラジオ波凝固術(ラジオ波焼灼術・レーザー手術)

アレルギー性鼻炎は下甲介粘膜に抗原が付着することで発症します。炭酸ガスレーザーなどを用いてこの粘膜を浅く焼くと粘膜は3〜4週間で抗原が侵入しにくく、腫れにくい粘膜に生え替わります。また、粘膜下のアレルギーに関係する細胞も減少するためアレルギーの症状が軽くなると考えられています。

この方法は私の出身大学である関西医科大学が世界ではじめて行った手術であり 約20年間に数千人の患者さんに行われており(私個人でも1500人ほどの経験があります)、ハウスダストに対する有効性(症状が手術前の半分以下になる率)は約80%に認められています。スギなどの花粉症に対してもステロイド点鼻などの薬物療法以上の効果が認められています(平成13年:スギ花粉症に対する季節前レーザー手術の治療成績)。

手術に伴う危険性や後遺症はなく、痛みや出血もほとんどないため、日帰りで安全に行える手術として近年広く普及しつつあります。ただ、レーザー手術の場合、1回では効果が不十分で数回照射が必要なこともあります。以前に「アレルギー性鼻炎に対するlaser surgeryの問題点 」というシンポジウムで検討した結果では1回照射の有効率は40%前後でした。かといって何回も照射すると患者さんの肉体的、時間的、時には経済的な負担も増えます。そのため、当院では近年開発されたラジオ波凝固装置を用いて粘膜を焼灼しております。

ラジオ波手術の作用機序はレーザー手術とほぼ同等ですが、鼻の奥まで観察の可能な内視鏡を用いて下甲介粘膜全体をレーザーよりやや深く焼灼することにより1回の手術で効果があらわれるという大きな長所があります。

手術の実際
  • 痛み止めの薬をガーゼに染み込ませたものを鼻の中に数枚入れて局所表面麻酔を行います。
  • 内視鏡で見ながら粘膜局所に痛み止めの注射を追加します。
  • 両側の下甲介をラジオ波で焼灼します。時間は両側で10〜15分ほどです。
  • 手術中は焦げたようなにおいを感じるときもありますがほとんど痛みはありません。
  • 重症の時などは次に述べる凍結術を引き続き行います。
  • 恐怖感の強い小児などでは全身麻酔下でも可能です。
術後の経過
  • 手術を行った部分は軽いやけどのような状態になり術後しばらくはかさぶたが付着します。
  • 特に最初の1週間はゼラチン状のかさぶたが付くために鼻閉が強くなりますが2週目からはかさぶたが薄くなり鼻の通りは良くなってきて、4週目頃にはほぼ粘膜が再生します。
  • 最初の1週間は粘っこい鼻汁が出ます。徐々に水性になってきて量も減少します。
  • 術後の痛みは軽度で鎮痛剤を服用される方はほとんどなく翌日以後も痛みが続く様なことはありません。
  • 出血も軽度で2〜3日鼻水に血がにじむ程度であり、特に血を止める処置も必要ありません。
  • においや味がわからなくなることはありません。
  •  

    • 術後の経過

鼻内後鼻神経凍結術

鼻内後鼻神経凍結術<

粘膜表層で起こったアレルギー反応は知覚神経を介して下甲介から中枢(脳)へと伝えられてくしゃみ発作を引き起こすとともに、中枢から下甲介へ分布する分泌神経を介して鼻水の分泌を引き起こします。アレルギー性鼻炎ではこの神経反応が過敏になっているために弱い刺激に対しても過剰なくしゃみ、鼻水が起こることが知られています。また、アレルギーはなくても冷たい空気などの刺激でくしゃみ、鼻水が起こる方もいます。

このことから、数十年前には鼻水を分泌する神経を切断して鼻水を止める試みがしばしば行われていました(ヴィディアン神経切断術:図のA)。しかし、当時の手術は内視鏡が無く、歯茎を切り顔の骨の一部を削って行われていたために体に対するダメージが大きく、涙を分泌する神経も同時に切断する結果、眼が乾くといった合併症が問題となっていました。

上記の問題を解決する方法として考え出されたのが後鼻神経に対する手術です(図のB)。後鼻神経はくしゃみに関係する知覚枝と鼻汁を分泌する神経を含みますが涙の分泌神経は含ないために、これを選択的に変性させることにより鼻水、くしゃみに対する抑制効果が高く、体へのダメージが軽い、涙液分泌は保たれるといった特徴があります。

後鼻神経は中甲介の後端部に一致して蝶口蓋孔という骨の穴から鼻腔内に侵入し、粘膜の裏を通って下甲介に分布します。したがって最も安全に後鼻神経の過敏な知覚および分泌を抑制するには粘膜表面から同部位を凍結変性させることが有効です。当院ではアレルギー性鼻炎や温度変化に敏感な鼻水などに対して前述の粘膜焼灼術と組み合わせて日帰りで行っております。

手術の実際
  • 多くの場合、前述のラジオ波焼灼術と同時に行います。
  • 後鼻神経が鼻腔内に侵入する部位に麻酔の注射を行います。
  • 手術は局所麻酔で粘膜の上から後鼻神経を数分間冷却するだけですので両側でも5〜6分で終了し、出血や手術後の腫れもほ とんど無く安全に行うことができます。
  • 痛みもほとんどありませんが、直後1時間ほどの間に神経に対する刺激痛が起こることがあります。この痛みも鎮痛剤で抑えられる程度であり、鎮痛剤をのまれる方は2〜3人に1人です。
  • 手術による合併症や機能傷害も無く、匂いを感じる神経は後鼻神経とは別ですので嗅覚に対する影響もありません。
  • 小児や恐怖心の強い方は日帰りの全身麻酔で行うこともできます。
  • 重症の場合、あるいは鼻腔形態が不良の場合はこれを矯正しなければ手術装置が後鼻神経に到達しないときがあります。このような場合には後に述べる粘膜下下甲介骨切除術と組み合わせて後鼻神経の粘膜下凍結術や切断術を行います。

鼻中隔矯正術+粘膜下下甲介骨切除術

中には、鼻腔の形態が悪くレーザー手術ができない場合やレーザー手術を何度行っても効果が表れない方もおられます。レーザー手術の適応は、その方の症状や鼻腔形態により異なり、レーザー手術で誰もが良くなるとは限りません。

また、薬の効果が少ない鼻詰まりの場合、粘膜の腫れよりも骨の構造に問題がある場合がほとんどです。これはアレルギー性鼻炎の方でも同様です。

鼻腔の形態が悪いときには、それを改善しないと鼻閉や鼻汁も改善しないので鼻中隔矯正術や下鼻甲介の手術が必要になる場合もあります。これらの手術は余分な骨を除去するものでほぼ永久的な効果が見込まれ日帰りでも可能です。

特徴

粘膜を保存する手術ですので鼻の機能が温存され出血も多くありません。

切開は鼻の中で行いますので外に傷はつきませんし、見た目の鼻の形も変わりません。

アレルギー性鼻炎を併発している方にはラジオ波凝固術を同時に行います。

局所麻酔を使用して1時間半ほどで終了します。副鼻腔炎を併発している場合には内視鏡下副鼻腔手術(ESS)も同時に行います。その場合には1泊の全身麻酔手術で行うこともあります。

費用

3割負担の方で鼻中隔矯正術と粘膜下下鼻甲介切除術を同時に行って約6万円弱です。

粘膜下下甲介骨切除術+後鼻神経切断術

鼻汁が特にひどい方にはレーザー手術が効きにくい場合もあります。アレルギー反応、特に後鼻神経を介するくしゃみや鼻水が極めて強い方には、後鼻神経切断術を行います。この方法はもともとレーザー手術無効の方に対する術式として、後鼻神経を完全かつ確実に切断することを目的に、世界で初めて私が考案・報告した術式です。(論文:粘膜下下甲介骨・後上鼻神経切除術・2000年・耳鼻咽喉科臨床:川村繁樹ほか)

この手術はレーザー手術が効かなかった方を含めても9割以上の方に有効であり、ほとんどの方が少なくとも3年間効果が持続しました。したがってアレルギー性鼻炎に対する手術も何種類かありますし、最大の効果をあげるには的確に術式を選択する必要がありますが、全国的にもこれら全ての手術を行い、的確に適応を判断できる医療機関は少ないと思います。

後鼻神経には直径1〜2mmの蝶口蓋動脈が伴走しており、この血管と神経を剥離して神経のみを選択的に切断することは理想的です。しかし、これは技術的に極めて困難で、そのために神経を確実に切断するには伴走する血管も同時に切断する必要がありますが、従来の医療機器では止血能力の不足や鼻腔深部には使用できないなどの問題がありました。

我々が使用している超音波凝固装置は小型で凝固止血能に優れ、内視鏡下での使用に適しています。神経を完全に切断するため凍結手術を上回る長期的な効果が得られます。(レーザー手術が無効だった方でも、くしゃみで90%、鼻水で75%、鼻づまりで100%の有効率)

実際に全国の大学病院など追試が行われており良好な成績が報告されております。ただ、いかにすぐれた機器であっても血管を切断する限り出血の危険性は皆無ではありません。

当院での手術療法

当院では、さらに手術方法を改良することにより開院後は1例の出血例も認めておらず、それによって90分程度の日帰り手術で行えるようになりました。この手術は多くの施設では7~10日間の入院で行われております。長期間の入院ができない方にとっては時間的、肉体的にも利点は大きいと思います。

大阪市ではこどもの医療費の助成が平成29年11月診療分から、対象年齢を15歳(中学校修了)から18歳(18歳に達した日以後における最初の3月31日)まで拡充されます。所得制限はありますが、これによって受験前の高校生でも手術医療費の負担が低くなります。

費用

費用は高額医療費適応となりますので、所得によって自己負担額が変わりますが、平均的な年収であれば手術、麻酔、入院全てで3割負担の方で約8~9万円(鼻中隔矯正術も同時に行った場合)です。

当院は、大阪府大阪市はもとより、京都・奈良・兵庫など、近隣の県より手術を希望される方も多くいらっしゃいます。相談は無料で受け付けておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

アレルギー性鼻炎の手術に関するQ&A

花粉の時期やホコリを吸った時に鼻が詰まって困ります。それ以外の時期はあまり鼻づまりはなく、くしゃみ鼻水もそれほど多くはありません。どういった手術が適していますか?

普段鼻づまりがあまりなく抗原を吸った時にだけ鼻が詰まるのであれば、下鼻甲介というアレルギーを起こしている場所の粘膜が腫れることが原因だと考えられます。内服薬や点鼻薬が合わない、あるいは希望しない場合は下鼻甲介と呼ばれる鼻粘膜を焼灼(凝固)する鼻粘膜焼灼術(ラジオ波凝固術)が適していると考えられます(アレルギー性鼻炎に対する手術治療の選び方①です)。
この手術は鼻中隔や下鼻甲介の骨が曲がっていたり、すごく分厚くなっていたりするような骨の構造に問題がある場合はあまり効果が出ませんが、粘膜の腫れが問題の時は有効な治療法だと考えます。またくしゃみや鼻水が多い時はアレルギー反応が強いので後鼻神経を切る手術が必要かもしれませんが鼻づまりが主な症状の場合は鼻粘膜焼灼術(ラジオ波凝固術)でも十分効果が見込めると思います。

過去にレーザー手術を何度か受けました1年程度で元に戻ってしまいここ何度かは数ヶ月程度しか持ちません。今後もレーザー手術の適応になりますか?

レーザー手術は鼻粘膜焼灼術の一種で、アレルギーの主な反応の場所になっている下鼻甲介の粘膜を焼くことによって粘膜を縮め、また、そこにバリアのようなものを形成してアレルギー起こす物質が入りにくくすることによってアレルギー反応を抑える方法ですが、一回のみの手術では1年程度で元の粘膜に再生する可能性があります。
当院で行なっている鼻粘膜焼灼術の機械はラジオ波と呼ばれる高周波であり、炭酸ガスレーザー手術より深く焼灼できますのでその効果は強く、また持続期間もレーザー手術より長く、2~3年ぐらい持つのは平均です。

ただそれでも再発する場合はありますし、再発しやすく徐々に効果が少なくなってきている時は鼻粘膜焼灼術の限界です。そのような時は下鼻甲介の骨を抜く粘膜下下鼻甲介骨切除術や後鼻神経切断術を合わせて行う方が有効だと思います。

常に片側の鼻が詰まっていて薬もあまり効きません。鏡で見ると片方が狭いようですが、これは手術が必要ですか?レーザー手術で大丈夫ですか?

常に片側が狭く、詰まっている場合は鼻中隔弯曲症の可能性が高いと思います。これはアレルギー性鼻炎とは異なる疾患で骨の構造上の問題ですので薬は基本的に無効で症状が強い場合は手術が必要かと考えます。ただ、下鼻甲介も同時に肥厚している場合も多くこの時は粘膜下下甲介骨切除術も適応になります。(アレルギー性鼻炎に対する手術治療の選び方②です)

鼻粘膜(下鼻甲介)を焼灼するレーザー手術などは骨の構造を変えることはできませんのであまり効果は期待できません。また鼻中隔弯曲症などで鼻の中が狭いと焼灼する機械が鼻に入りませんので手術が不十分になり得ます。

鼻づまりだけではなくくしゃみや鼻水も出ます。また、温度変化や寒暖差、鼻を少し触ってもくしゃみや鼻水が出ますが、この場合はどのような治療が必要ですか?

温度変化や寒暖差に反応する場合、また鼻づまり以外にくしゃみや鼻水もある場合はアレルギーに関係する後鼻神経の反応が強すぎると思われます。この場合は後鼻神経切断術の適応と考えます。後鼻神経は下鼻甲介に分布する神経で花粉やほこりといった抗原だけでなく、温度変化や化粧品などの化学物質、気圧や湿度の変化、接触刺激などにも反応します。(アレルギー性鼻炎に対する手術治療の選び方③です)

抗原や温度変化などで後鼻神経の知覚神経が刺激されると、その刺激で下鼻甲介の粘膜が腫れ、同時に刺激が脳に伝わり後鼻神経の分泌神経を介して鼻水やくしゃみを起こす命令が出ます。後鼻神経はくしゃみや鼻水の約半分を司っていると考えられこの神経を切断する事によって過敏な反応を抑えます。ただし、約半分の鼻に分布している神経は残りますのである程度は反応も残ります。上の図の3の部分で切断します。この手術は同時に下鼻甲介の骨も切除しますので、骨の構造を治すことと粘膜の腫れを抑える両方の作用があり、高度な鼻づまりにも有効でほぼ永久的な効果が見込めます。

後鼻神経切断術について(粘膜下下甲介骨切除術を含む)をご参照下さい。

神経を切るというのは怖い感じがするのですが、臭いが分かりにくくなったり、副作用とかはありませんか?

後鼻神経は下鼻甲介に分布する神経で鼻全体の神経から比べると一部です。上でも述べましたが、くしゃみや鼻水の約半分を司っていると考えらており、この神経の切断は過敏に反応しすぎている部分を抑えます。仮に全ての神経を切断すると反応が全くなくなってしまって、鼻が乾きすぎたり、異物への反応が弱くなりますので、ある程度は神経を残しておく必要があります。
また、臭いに関係する嗅神経は全く別の部位に分布していますので、術後一時的に鼻が詰まる時期が過ぎれば嗅覚障害が起こることはありません。

アレルギー性鼻炎の手術は何歳から受けることができますか?

鼻粘膜焼灼術であれば、手術時間も短く痛みもほぼないので10歳位から受けていただけます。手術そのものより、手術後のかさぶたを掃除する処置のほうがむしろ大変かもしれませんが鼻水を吸ったりする処置を普通に受けることができれば大丈夫だと思います

粘膜下下鼻甲介骨切除術は骨を触る処置ですが下鼻甲介の骨は鼻の顔面骨の成長とはあまり関係がないと言われておりますのである程度の年齢になれば大丈夫だと思います。13歳以上身長150 cm 以上であれば問題ないという報告もあります1)。
後鼻神経切断術も下鼻甲介骨切除術とともに行うことが多いので年齢の制限もほぼ同じです。
鼻中隔湾曲症はアレルギー性鼻炎の手術とは異なりますが、鼻づまり改善のためにしばしば同時に治療を行います。この疾患に対する鼻中隔矯正術は顔の骨の発育に影響があるため以前は1718歳以降が望ましいと言われておりましたが、近年の手術は鼻中隔の湾曲部を必要最小限に矯正する手術であり、より低年齢でも行う傾向があります。施設によっては10歳以降3)、あるいは14歳以4)との報告もあります。当院でも適応を吟味して15歳くらいから手術を行っております。

下鼻甲介骨切除術が後鼻神経切断術を行って症状が再発することはありませんか

この部分の骨は基本的に再生はしませんので下鼻甲介の縮小により鼻の中が広くなる効果はほぼ永久的と考えられます。また後鼻神経も再生する可能性はゼロではありませんが神経断端を切断凝固することにより再生をしにくくする処置を行います。ただしアレルギーの体質そのものを支えているわけではありませんので他の部分の神経が反応を起こしたり中には神経再生により症状がある程度戻る可能性もあります。

手術後の経過や安静の必要性について教えてください

鼻粘膜焼灼術後は鼻の中に何もつめることなく帰宅して頂いておりますので術後詰め物を抜く必要はありませ。粘膜下下鼻甲介骨切除術や後鼻神経切断術では一晩だけ鼻の中に詰め物をし、次の診察日に全て抜去します。どの手術も術後一週間ほどは粘膜が反応性に腫れ、多少血の混じった鼻水が鼻の中にたまりますので一週間程度は鼻が詰まりやすくなります。
2週目からは粘膜の腫れが引いてきますし、粘調な鼻水も減ってきますので鼻の通りがよくなってきます。34週目では明らかに手術前より鼻づまりや鼻水も改善します。かさぶたは最終的には12ヶ月でほぼなくなります。
安静に関してはデスクワーク程度であれば術後2日目から可能ですが、血圧が上がったり血流が増えるような肉体労働は45日目から出血がないことを確認しながら始めて下さい。 1ヶ月半を過ぎるとほぼ出血の危険性もなくなります。それまでは激しい運動や、過度の飲酒、飛行機などはお控え下さい。

参考文献
1)藤枝重治: アレルギー性鼻炎の診断と治療 日耳鼻 2013;116 110―111
2)Mori S, Fujieda S, Yamada T, et al : Long―term effect of submucous turbinectomy in patients with perennial allergicrhinitis. Laryngoscope 2002 ; 112 : 865―869.
3)荒 木 昭 夫: 手 術 療 法-小 児 に対 す る手 術 療 法-. JOHNS 7: 769~772, 1985.
4)寺 島 邦 男:小児鼻疾患 に対 す る手術症例 の検 討 耳 展39: 5; 538~545, 1996

監修医師

医院名 医療法人 川村耳鼻咽喉科クリニック
院長名 川村繁樹
資格 医学博士
関西医科大学耳鼻咽喉科・頭頚部外科 特任教授
身体障害者福祉法第15条指定医

院長