当院がCTを置いた理由|川村耳鼻咽喉科クリニック

当院がCTを置いた理由

CTの診断能力

当クリニックでは耳鼻科診療所としては珍しく、というか全国でも数カ所あるかないかだと思いますがCTスキャナーを設置しております。計画段階では税理士さんやいわゆる開業コンサルタントの方などから「採算性がない」とか「場所もとるし、ランニングコストもかかる」などと経営的には決してプラスにならないと反対されて続けていました。それでも私は自分の目指す医療にはCTが必要であると強く主張し、なかば強引に導入に踏み切りました 。なぜそこまでCTにこだわったのか今回はその訳を少しお話ししたいと思います。我々の世代、すなわち20年ほど前に医師になった時代というのはCTの発展期でもあり誰もが従来のX線と比較してその診断能力の高さに驚いていた時代でもあります。CTの特徴は骨と軟部組織(粘膜や筋肉)の描出にすぐれ、数mm単位の断面で画像を作れることにあります。耳鼻科のように骨と粘膜で囲まれた部位を扱い、数mm単位の細かい情報を必要とする診療科にとっては極めて有用であり骨の描出を苦手とするMRI(核磁気共鳴装置)よりはるかに使用頻度の高いものです。

鼻づまりにもいろいろあります

少し実例を挙げて説明します。例えば「鼻が詰まる」といった症状で患者さんが来院されたとします。まず、耳鼻科医は肉眼で鼻の中を見て、次に内視鏡(ファイバースコープ)などを用いて鼻の中を観察します。この段階でどこがどう狭くて鼻が詰まるのかはおおよそ分かるでしょう。当院でもそうですが、患者さんにモニターで説明する施設も多いと思います。問題はその後です。狭くなっている部分は分かっても肉(粘膜)が厚いのか、骨が厚いあるいは曲がっているのかは外からは分からないこともあります。少し粘膜が腫れている程度なら粘膜焼灼術でよくなる可能性も高いのですが著明な場合には粘膜の一部を切り取ることも必要でしょうし、骨が厚ければ骨の切除が必要となります。

CTではこのように写ります

図1まず正常のCT(図1)イラストAをご覧下さい。我々が意識する鼻の中は図の赤い線の内側です。この中には正常構造物として鼻中隔、下甲介、中甲介といったものが存在します。CT上では骨は白く、粘膜は灰色に、空気は黒く写ります。したがって赤い線の内側で黒い部分が多いほどよく通る鼻ということになります。
では図2を見て下さい。正常と比較して黒い部分が少ないのがお分かり頂けると思います。これは空気の部分が少ない、すなわち詰まりやすい鼻ということになります。
その原因を見てみますと鼻の真ん中にある白い骨の部分が曲がっています。これが鼻中隔弯曲症で鼻閉の原因となる代表的な疾患です。更に注目すべきは下甲介粘膜の肥厚です。

イラストA
左下甲介(CT上は向かって右側)の灰色の部分が大きく、白い部分が小さく写っています。これは骨の厚さに比べて粘膜が極めて厚くなっていることを示し、鼻づまりの原因として粘膜の肥厚に問題があると診断できます。この場合は粘膜の焼灼と共に一部を切除する方法が必要だと推測されます。
一方、図3はどうでしょうか。先ほどと同様に鼻中隔の弯曲があり、鼻づまりの一因となっています。図2と異なるのは下甲介の所見です。灰色の部分に対して白い部分が厚いのが分かります。すなわちこの場合は骨が厚いために下甲介が肥大して鼻づまりを起こしていると考えられ、粘膜と骨を剥がして骨を抜き取る粘膜下下甲介骨切除術が必要だと判断できます。

図2また、中甲介が鼻づまりの原因となる場合もあります。図4では両側の中甲介の中に空気が写ってきています。本来は中甲介は1枚の板状の骨ですが時々(日本人で10〜20%)その中に空気が入って風船状に膨らむことがあります。しかもこの中の空気は外と交通しませんので鼻の通りから考えると非常に不利な状態です。この病態を中甲介蜂巣と呼びますがこのような時には内側半分の骨を切除して通気性を良くすることも行います。

図3 図4

視力障害の原因にも

図5次に副鼻腔の病変を見てみましょう。図5は高度副鼻腔炎のCT所見です。本来は空気で満たされ黒く写るべき副鼻腔が全て灰色に写っています。これは副鼻腔が腫脹した粘膜で充満されているからですが、このような高度副鼻腔炎は診断するだけなら単純X線でも容易です。ただ、この方のず〜っと奥の方、後鼻腔と蝶形骨洞と呼ばれる副鼻腔(図6)を正常(図7イラストB)と比べて下さい。後鼻腔も粘膜様陰影(おそらく鼻茸)で充満し、蝶形骨洞にも高度粘膜腫脹が認められます。蝶形骨洞などの深部副鼻腔の炎症は物を見る神経(視神経)へのダメージを引き起こし稀ながら視力障害をきたすこともあります。したがって副鼻腔炎があり、急に視力が低下してきた場合には深部副鼻腔の病変を確認する必要がありますがこれは単純X線では困難で、CTによる精査が必要となることがあります。

図6 図7 イラストB

病気の理解のために

以上お示ししたのはほんの一例ですが、CTの有用性というのは診断能力の高さだけではありません。「基本理念」でも述べましたが耳鼻科の病気は耳の中や鼻の中などのご自身では見えない部分がほとんどです。したがって我々が「ここがこうなって、こういう病態です。」と、単に口で説明しても理解していただけない、時には信じてもらえない事も少なくありません。ところが、それを顕微鏡やファイバーにて実際に見ていただき、いろいろな図を使って病気を説明し、さらにはCTを正常のCTと比べて見てもらうと表情が一変することが少なくありません。「どうしてこういう状態なのかやっとわかった」と言われることを数多く経験してきました。この「病気の理解に有用である」ということはCT本来の診断能力以上の価値があるのかもしれません。

設置の理由

これからが本題です。冒頭で述べましたように我々の世代は大病院ではCTがあるのが当たり前でした。したがってCTの有用性をフルに活用してきましたが、それでも多くの場合は予約制で、後日にもう一度来院して撮影していただき、更にもう一度別の日に結果を聞きに来ていただくというのが一般的でした。これがバイト先の診療所となるともっと不便で近くのCTを設置している病院に予約を入れて患者さんに撮影してもらいにいって、後日フィルムを借りてきていただき(時にはコピーの買い取りになる場合もありました)、不要になれば返しにいってもらう事になります。そうすると他院での初診料などが患者さん負担となり時間的にも経済的にも非常に不利益ですし診断の遅れにもつながりかねません。ところが自院にCTがあれば当日に撮影、診断、説明ができ患者さんにとっても満足が得られるのではないかと考えました。当院の基本理念である「正確で迅速な診断」や「患者さんが十分に理解・納得できる医療」のためにはCTが不可欠だと判断したのが設置の理由です。

必要な時にのみ撮影を

CTがいくら有用な検査であっても必要、不必要を見極めなければなりません。当院では単純X線もありますから単に副鼻腔炎の有無を調べるだけならそれで十分です。実際にCT検査を希望されても不必要であることを説明してお断りした事もあります。ただ、鼻の病気で例を挙げると、単純X線で副鼻腔炎があってもっと詳細をしらべる必要がある場合や、鼻茸(ポリープ)があって深部を調べたい場合、副鼻腔炎が原因と疑われる頭痛がある場合などは検査をお勧めする場合もあります。勿論、最終的にはご本人のご判断です。検査費用も決して安価なものではありませんから(3割負担で約3千円)CTの有用性、時には不必要性もご理解いただければ幸いです。

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